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研究の背景

NEDOのPV発電普及に向けたロードマップ「PV2030+」によると、当初2030年の目標を数年前倒しする形で、日本の全電力量の10%を、瞬間では全電力の50%を占める102GWの大量PV発電が導入されるというロードマップが想定され、PV発電の大量導入によるCO2削減などに向けた取り組みが本格化してきている。そのため、PV発電の予測を用いて安定な電力供給を実現する制御技術の新しい仕組みの開発が急務となっている。その一方で、発送電分離や電力自由化による新しい電力供給体制、および、情報インフラや家庭用蓄電池技術等の高度化によるデマンドレスポンスなどの開発により、需給バランスを達成するシステム全体の枠組みそのものを根本的に見直し、再構築する必要性が生じている。

そこで、本研究を始めるにあたり、PV発電がそれぞれ28~64GW, 102GW, 330GW導入される場合において、現在の火力機を主な調整用電源とする電源構成のもとでの火力機による発電状況を数値的に検討し、また、現在の予測精度を把握した上で、電力供給技術における「あるべき姿 」を図1に示すように整理した。ここで、EEDCとは、前日計画の一つとして、系統大のPV発電予測をもとに系統側と需要家側の電力負荷配分を決める環境的経済的負荷配分制御であり、Environmental Economic Dispatch Controlの略であり、また、HDPとHDCは、それぞれ、エリアレベルの太陽光発電予測をもとに需要家側の電力負荷配分を各DRアグリゲータに前日に要求する調和型配分計画と、当日運用である調和型需要家制御を示し、Harmonized Dispatch Plan、Harmonized Demand-side Controlの略である。

図1 太陽光発電の大量導入時の電力系統制御のあるべき姿

図1に示す検討により、(i) PV発電の大量導入には発電予測を用いた系統制御が不可欠であるが、大外れなどの非一様な予測誤差への対応が必須となること、また、(ii) PV発電の大量導入、および、それによる蓄電池の活用等により回転機系が減少し、かつ、電力自由化等によりアグリゲータ、バランシンググループ、xEMSなどが出現することで現在の発電構成が抜本的に変化することが予想される。したがって、火力機は運用責任に徹するなど従来電源の役割が変わり、またリアルタイム市場やレギュレーション市場などの様々な市場と系統制御を融合する必要が生じ、次々世代までを見据えた新時代の電力系統制御システムの基盤を構築することが急務となる。

 

研究目標

本研究では、図2に示すように、太陽光(PV)発電の大量導入と、調和した電力供給を実現するために、太陽光発電予測/需要予測に加えて、需要側エネルギーマネジメントシステム(FEMS, CEMSなど)、協調パワーコンディショナー(PE-AG)、デマンドレスポンスアグリゲータ(AG)、バランシンググループ(BG)といった様々な様態が想定される中間層(調和型アグリゲータ)の機能や特性を活用した、次々世代の電力系統制御のためのシステム理論を構築することを研究目標とする。

そのため、本研究では、102GWの太陽光発電の導入を可能とし、かつ、330GWの導入までを見据えた次々世代の調和型電力システム安定供給制御技術手法の核となる基盤理論・技術として、つぎの基盤理論・技術を構築することを目指す。

  1. 電力システム設計:系統運用者層-中間層-ユーザー層で構成するシステム設計論
  2. 予測技術:安定供給を実現する制御のためのPV発電予測技術
  3. 制御技術:PV発電予測を最大限活用した安定供給制御理論・技術

次々世代

図2 研究対象とする次々世代の電力系統制御の枠組み

 
研究のねらい

本研究成果により、PV発電予測の不確実さのもとでも、電力システム全体の経済性、環境性、利便性、公平性等を調和した形で最適に実現する電力系統制御を達成するための基盤理論が構築されることが期待される。また、これにより、政府の2030年のPV発電導入目標である64GWを通過点として102GW導入までの連続的な移行を実現し、かつ、102GWを超える導入をも見据えた安定供給の基盤ができる。さらに本研究を遂行するにあたり必要なコラボルーム開発・管理・運用関連企業を巻き込んだ研究会電力ポータルサイト開発・管理・運用を行うことにより、つぎの展開が期待される。

  • 電力シミュレーションを通じた連携研究を可能とするコラボルームを構築することにより、新電力システム開発のための新しい研究連携法が提供できる。
  • 関連企業を巻き込んだ研究会の実施により、社会実装を見据えた基盤理論・技術が構築できる。
  • 電力ポータルサイトを開発することにより、得られた研究成果や電力等データを公開し,本関連の研究の推進に必要な情報やデータが提供できる。
 
 
研究の将来展望
  1. 本研究で構築する系統制御の基盤理論は、導入される再生可能エネルギーとしてはPV発電に特化する。しかしながら、本研究では、不確かで、かつ異質の分散エネルギーを効率よく管理するための、整合性、時空間分解能性、大域性vs局所性、効率性、リスク・レジリエンスなどに関する普遍的な原理・原則を追及した基礎理論を構築するため、風力発電などの他の再生可能エネルギーをはじめ、熱やガスエネルギーも含む様々なエネルギーを効率よく管理するためのシステム設計理論の構築につながるものと考える。
  2. 本研究成果は、電力システムやエネルギーシステムに限らず、次世代や次々世代の交通システム、物流システム、経済システム、通信システムなどの様々な社会システム、および、それらを統合した全体システム設計の理論展開にもつながる。すなわち、情報ネットワークや物理ネットワークなど複数の大規模複雑ネットワークが相互作用する社会システムを最適に設計するためのシステム理論の基盤を与えるものと期待できる。

 

研究のアプローチ

本研究で掲げる研究目標を達成するために、以上の研究背景での検討をもとに、つぎに示す2つの柱を軸とした研究を実施する。

  • (A) (太陽光発電予測を活用した調和型電力系統制御)大外れなどの予測誤差を含む太陽光発電予測を活用し、環境性、経済性、公平性、快適性などの社会システム的視点で調和した電力安定供給を実現するための電力系統制御理論・技術の開発
  • (B) (系統運用者層-中間層-ユーザー層から成る電力システム設計)太陽光発電や蓄電池の普及、電力自由化、発送電分離等に伴う電力システム構造の変化と関連して生じる、アグリゲータに代表される需要家・供給家には入らない第3の機能の役割を明確化し、電力システム全体を最適化するための設計理論構築

特に(A)では、予測大外れ等により生じえる計画外対応に向けて、大外れの解析とその予測技術開発に加えて、UC,EDC,LFC,GFなどの需給制御や送配電系統側の制御のようにこれまでの時空間分解能で分けられた制御構造を超えた、全く新しい形で需要家側も含めた連携系統制御の理論展開が挙げられる。また、(B)では電力自由化における市場と系統制御を融合するための枠組みの構築をはじめとして、供給家側のバランシンググループ、需要家側のDRアグリゲータ、配電系統の協調型パワーコンバータなどの中間層の役割の明確化とその最適設計・評価などの課題があげられる。

そこで、上記の2つの柱を軸とした研究を推進するために、図3に示す5つのユニットに分けて進める.以下に、各ユニットの研究目的を述べる。

  • PV予測ユニット:大規模発電データと多種気象リソースを融合した全時空間領域高精度太陽光発電予測・把握技術を開発する。  
  • 需給制御ユニット:次々世代の需給制御・運用における従来電源のあり方を明らかにし、他の需給調整リソースとの協調・統合を実現する。  
  • 需要家制御ユニット:PV発電や蓄電池を有する需要家群に対して、利便性と公平性確保の下、系統需給バランス維持に貢献するための需要家制御を実現するための基盤理論・技術を構築する。  
  • 送配電制御ユニット:PV発電の空間的な出力変動特性・予測可能性も考慮した上で、需給バランスを検討する上で不可欠な送配電グリッドの安定運用問題同期安定性過負荷電圧等)を解決するための基盤理論・技術を開発する。  
  • 基盤理論ユニット系統運用者層-中間層-ユーザー層から成る電力システム全体を、制度整合性安定性などの視点から最適に設計するための基盤理論・技術を構築する。

2つの研究課題と5つのユニット

図3 2つの研究課題と5つのユニット


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