ハイブリッドシステムの解析と制御

研究概要

ハイブリッドシステムとは連続ダイナミクス(力学系を想像してください)と離散ダイナミクス(論理のことです.例えばif-thenルール)が混在したシステムのことを言います. 例えば,人間は,腕や脚といった力学系と,脳という論理的思考ができる離散ダイナミクスが混在したハイブリッドシステムであると捉えることができます. 人間に限ることなく,ロボット,自動車,飛行機,化学プラントなど様々なシステムは,力学(物理)的要素と,コンピュータプログラムによって実現される論理的要素が混在しています.

ハイブリッドシステムのイメージとしては,オートマトンにより離散構造があたえられ,そのノードごとに運動方程式が与えられているようなものを想像すればよいでしょう. ロボットの歩行の場合,2本立ちモードと1本立ちモードがあり,運動方程式が切り替わります. また,飛行機や化学プラントなどでは,立ち上げモード,定常モード,緊急モードなど様々なモードで制御系が構成されています.

これまでは,このようなシステムの制御系は試行錯誤的な方法で設計されてきました. しかし,今後,システムがより大規模化・複雑化するに従い,試行錯誤的な方法で設計することは容易ではありません. このような背景のもとで,ハイブリッドシステムに関する研究が,90年代頃より制御の研究分野とコンピュータ科学の研究分野で注目され, 現在では21世紀の新しい研究領域になりつつあります. 簡単に述べるならば,ハイブリッドシステムの制御理論は,論理情報処理を含む,言わば「知的な」制御系の設計理論の構築を目指していると言えるでしょう. この実現に向けて,本研究室では様々な観点から精力的に研究しています.

連続式鋼材加熱炉の最適制御

鉄鋼業において薄鋼板を製造する主たるプロセスの一つにホットストリップミルがあります. ホットストリップミルでは,鋼片(スラブ)を3~5つのゾーンで構成された連続式鋼材加熱炉によって 1200℃前後に加熱し,圧延機列にて製品厚に圧延します. 近年はマーケットのニーズとして普通鋼から特殊鋼まで多品種の薄鋼板の製造が求められていますが, 多品種を小ロットで生産する場合,生産ラインの頻繁な条件変更は効率性を阻害するため生産計画をうまく立てる必要があり, 効率良く加熱するために燃焼制御系をいかに構成するかが重要な課題となっています. 加熱炉における操作量は主に2つあり,スラブの装入スケジュール(どの鋼材をどのタイミングで加熱炉内に装入するか)と 加熱炉の燃焼制御(炉内の温度調整)になります. これまではそれらの2つの操作則がそれぞれ独立に設計されてきたましたが, しかし,加熱工程においてさらに効率良く鋼材を加熱するためには, 装入スケジュールと燃焼制御を統合して同時に最適化することが必要になります.

本研究では,装入スケジュールと燃焼制御の同時最適化を達成するために,加熱炉のモデリング・最適問題の定式化・シミュレーションによる検証を行っています. ここで,時間的に変化するシステム変数は,a) 炉帯温度や鋼材温度,投入燃料,b) スラブの装入順などで与えられ, 前者は連続値(実数値)をとるのに対し,後者は離散値をとります. こうした連続値と離散値が混在する系(ハイブリッドシステム)の取り扱いは一般に困難ですが,近年制御工学において, ハイブリッドシステムの制御理論として研究が発展しており,様々なツールが使えるようになってきました. 本研究では,ハイブリッドシステムのモデル予測制御(最適制御)の代表的な手法の一つである混合論理動的モデルを用いる手法を導入した研究に 取り組んでいます.

参考文献